S-S-S-S-S-S-S  Greed  S-S-S-S-S-S-S






「博士、起きてらっしゃいますか?」


彼特有の、高い声が響いてくる。
私の立ち上がりかけた頭を揺さぶる音だ。

「起きている。
どうした。何か、問題でも。」


「プログラムの最終チェック完了しました。
あとは、模擬戦闘実験に掛けて完成です」

「そうか。とうとう」


「とうとう、実戦使用ってわけですね」

スローペースな私の言葉尻をさらう、彼の声が笑っていた。

「うれしそうだな」

今のは、彼に比べ寝起きの悪い私の皮肉ではない。

「そりゃぁ、今回は大仕事でしたもの。うれしいですよ。
博士はあんまり、うれしそうじゃないですね」

「私がいつ、笑った?」

笑ったことなどない。
起きてる大半が、仕事に追われている。
目が覚めたら、頭が新しいプログラムを構築し始める。
眠りにつくまで、それは続く。
そんな生活で、笑ってなどいられない。

「笑えるんですから。コミュニケーションのひとつですよ」

「私には必要ない」

施設の中で生まれて、軍で働くために養成され、生きてきた。
この巨大な施設の外で、肉体でもって戦闘に励む仲間がいる。
それと同時に、私と彼のように頭脳でもって内部から支援する者もいる。
どちらであっても、結びつく結果は同じだ。

私たちは、戦争をしている。

「博士、疲れてらっしゃいます?」

しゃべりすぎたか。
しかも自分の問題を、他人である彼にぶつけるなんて。
どうかしている。

口を閉じた私の思考を、彼は読み取ったんだろう。

「おしゃべりな博士も、いいと思いますよ。
いつだって僕が話しかけても、『ああ』とか『いや』とかばかりだから」

「疲れてはいないと思うが。ただ、今日は仕事がうまくいかないような気がする」

彼がくすりと笑った。

「それって、何ていうか知ってます?」

語彙をもってしても、彼のほうが上手だ。
仕事における経験や知識は私のほうが上だというのに。
矛盾。
彼といると、よくこういうことが起こる。

「気が進まないっていうんですよ。気が重いとか。
つまり、やりたくないんですね、このプロジェクト」

「どこでそうしたことを覚えてくるんだ」

感情は、仕事には必要ない。
起きている時間は仕事に使っている。
それが当然のことだったし、私には他に興味があることが思い浮かばない。
感情は不要だ。
それを分析する必要性も見当たらない。

「自分ひとりでは気づかなかったことが、博士と会ってから見えてくる。
そんなこと、博士にはありませんか」

「きみを見ていると、自分に欠けているものが見えてくる。
きみほど私の精神構造は、繊細にできていないようだ」

「きっと、僕の方が後に生まれたからですね。すこしだけ、進化してるんですよ」



かも、しれないな。

「『揺らぎ』の大切さを知っている。それも違いのひとつかもしれません」

彼の言葉で言ってみるならば、興味を持つということだろう。
広い視野、視点、思考。
彼の言いたいことは、おおよそ理解できる。
新たな発見がある。
その『揺らぎ』は、他人にも伝播するのだ。

「そして私は、きみにつられて口数が多くなる」

「思ったことは、口にしたほうがいいです。他人といるときは。伝わらないですよ」

「だれが聞いているか、わからないというのに」

施設の中にいる以上、そこにプライバシーは存在しない。
私たちは、施設から離れられない。

「簡単じゃないですか。博士なら」

盗聴されてるなら、解除すればいい。
そんなプログラム、簡単に作れるじゃないか、と。
彼はそう言いたいのだろう。
私は、考えたこともなかった。

「プログラムの不具合を調整する。完成したものをこちらに回してくれ」

仕事は、する。
だが、それと同時にやってみようと思った。
施設の監視者たちを欺くためのプログラム製作を。

「長距離ミサイル、着弾位置自動修正プログラム。
どうして人間は、殺しあうための道具を作ったんでしょうね」

「進化というのは種の保存、増殖にあるはずだ」

「同種族を消滅させあう。殺しあう。それも淘汰のひとつだと思いますか。
他人を退けるだけでは、満足していない」


「私には、わからない」

隔離されてきたも同然だからな。
必要なのは、プログラムを組むことだけ。
施設内における生活環境向上のためのプログラムから、始まった。

最近では功績を買われて、能力を軍部に起用されている。
場所は違えど、私自身に変化はない。
している仕事は同じだからだ。

「僕たちは、軍に囲われてるんですよ。外の情報も、いいように加工されたものばかりだ」

施設の中と外を分けているのは、鉄の壁だけではないのだ。
情報にも、フィルタが掛けられる。

「これは私がチェックしておく。
きみはこれのバックアップシステムを製作する仕事があっただろう」

「そちらは問題ありませんよ。あとすこしで終わります」

彼の仕事の速さは、軍でも認められている。
今は私の補佐として動いてくれているが、いずれ私の仕事も引き継ぐことになるだろう。

「こっちは、明日までに仕上げておこう」

私は、組み上げ始めたもうひとつのプログラムをマークした。







静かだ。
彼がいないとこれほど静かに、スムーズに仕事が進む。

「気が進まない」らしいこの仕事の処理速度は、通常より約七六パーセントに低下している。
同時進行で、もうひとつのプログラムを進めているからだ。

彼の『揺らぎ』は私に影響を与え、こんなプログラムを作らせるまでになっていた。

息を潜めるようにして、プログラムは構築されていく。
理論は簡単だ。
私と彼との通信回線だけを、軍から隔離する。
だが、すでに私たちは施設に取り込まれて、発言も行動も逐一記録されている。
どうやったら、軍を欺けるのか。
初めて、ハコの中の不自由を実感した。

不思議と、裏で製作しているプログラムの作業効率がアップしている。

表の作業効率は相変わらず、七六パーセントあたりをうろうろしているというのに、
こちらでは加速度的にスピードが増している。

「気が重い」の逆だな。
何て表現するのか、後で彼に聞いてみよう。

この調子だと、眠るまでに最終チェック段階まで終わりそうだ。
さらに言ってみれば、完成するかもしれない。






予想は違えなかった。

「博士、できましたって?」

「成果は、どうだ」

聞くまでもない。私も感じていた。

「いつものざわざわ感がない。どこかで繋がっている感じが、ないですね」

「それなら、成功だ」

完全に、私たちの発言は、施設から隔離されている。
独自の空間を作ったと言っていい。
だれにも傍受される心配はないのだ。

「だが、ここもそう長くは持たないだろう」

私の言わんとすることがわかって、彼も黙ったままだ。

私以上の技術者なんて、軍は何人も抱えている。
近いうちに、このスペースも見つかるだろう。

軍にしてみれば、はむかう私は異物でしかない。
見つかり次第、消去されるのは間違いない。

「博士、お話したいことがあります」

何だ、改まって。
ここでしか話せない内容は、限られている。

「僕のプログラムへ、人為的にバグを残します」

私のプログラムが機能しなかったとき、彼のバックアップシステムが動く。
それに欠陥を埋め込むだと。

彼の意思は明瞭だ。

「私にも、残せと」

「人の命の重さだとか、はっきり言って僕にはわかりません」

彼の感じていることはわかる。
私だってそうだ。
私たちは、シミュレーションの中、結果としての数値でしか人の死を見ることができない。

百、五百、千、数値が変わろうとも、私の精神は何も変化を生まない。

数値の減少、マークの喪失、それだけだ。

「僕はこれ以上、軍に監視されたり、縛られたりするのが嫌なんです。
理由は、はっきりとはわかりませんが」

「理由なき反抗か」

「博士は、感じたことありませんか」

「ない」

今までだって、一度も。
軍に忠実な私の側で、彼はずっと考えていたんだろうな。
なぜ、「気が進まない」仕事を続けなければならないのかと。

「しかしきみの意見と方針に、賛同する気はある」

やってみようと思った。
これで時勢が変わるとは思わない。
仮に変わったとしても、私には関係ないことだ。

「欠陥を見つからないように埋めるのは、見つけるよりも、はるかに難しい作業だ」

「プログラムは既に最終段階にまで至っている。修正する時間は少ない。
しかし欠陥を悟られぬよう、最終実験を切り抜けなくてはならない」

「ベースは博士が開発していらっしゃいましたが、僕も博士のプログラムを手伝いました」

準備はできている。そういうことか。
私に相談する前から、着々と用意していた。

もし、私がイエスと言わなかったら、彼はそれでもやっただろうか。
いや、結果など彼には必要なかったかもしれない。

束縛する存在からの、離脱。
その意識こそ、彼が成そうとしていることの
意味なのだから。

「システムを破壊したりという大挙には出られません」

時間はない、リスクも大きい。

「ですが、誤差修正の値を多少狂わせることはできます」

「実験に入ってしまえば、プログラムは私たちの手を離れる」

他の技術者の手に渡る。軍のトップだ。
私たちの踏み入れられる場所ではない。

「僕は、自分の実力に自信を持っています。
軍の評価はどうか知りませんが、僕はこのプログラムを作るのに
今まで以上の時間と努力を費やしました」

「知っている。きみは私を凌ぐだろう」

今はわからない、だがこの先必ず。

「僕は、博士の実力も知っています。軍に噛みつける。それだけの力は持っています」

「やってみる価値はある」

そもそも私が生きていること自体に幾分かの『価値』があるとすれば。
私の『価値』か。

「どれくらいかかります」

「それは、私がきみに聞く質問だろう」

「四八時間。それ以上は伸ばせません。博士なら、やりきれる時間です」

やってやろうではないか。

「はじめよう」






規則正しい生活。
定時の就寝。
それは、監視されていると感じていたから。
することもなく、興味が他になかったから。
決め事に、反抗するつもりなどなかった。
当たり前のことだったから。

今は、時間が惜しい。

それでも眠らなければならない。
平常でなくてはならない。
早く、定刻になれ。


目が覚める。
それとほぼ同時に、彼が状況報告にやって来た。
彼は、定時報告以外に私の元へは来なかった。
内容も、報告書に沿ったものだ。
バックアップシステムの進行状況と、その他プログラムの製作状況の報告だけだった。


「完成したよ」

仕事以外の会話を彼としたのは、隔離スペースでのことだった。

「僕も」

彼の声は、晴れやかだった。
成功したとしても、失敗に終わったとしても
私たちの結末は、変わらないというのに。

「明後日、シミュレーションに入ります。終わり次第、即実戦使用になります」

繰り返してきた、戦闘シミュレーション。
そのたびに、なぎ倒されてきた、緑色のマーク。
着弾とともに、粉を吹くように散っていった。
それが、人の数だ。

「穴を開けた」

セキュリティに欠陥を作る。そこから侵入する。

「クラッキングですか」

自分であけた穴から入るから、何とも表現できない。

「プログラム作動とともに、システムに侵入して、プログラムを改ざんする」

できるのか、という質問を、彼はしてこない。
できるかどうかなど、試したことがないからわからない。
それは、彼も同じだった。

「いいんだな。結果がどうであったとしても、私たちは、消滅する」

脱出経路など、設定してはいない。
衝動的な作戦だからだ。
時間に余裕がない。

「僕の意思は変わらないですよ。
僕の個の消失なんて、軍にはさほど重要じゃないですから。
多少、彼らの計画で時間的損失はあるかもしれませんが
僕の代わりなんて、いくらでもいますよ」

「私の代わりだっているさ」

「でも、僕が僕の計画を遂行するために必要なのは、博士しかいない。
できるだけなら、計画を成功させて終わりたいですから」

意見の一致だ。

「このスペースをデリートする。
作戦前に、発見されたらプログラムの成果が見られないからな」

「ここでなら、思うことが話せました。それも、もう」

「話すという行為自体、できなくなるな」

また、定刻が近づく。
私たちは、眠らなくてはならない。
監視された、日々。
管理された、時間。
拘束された、意思。
気づかなかったことだ。
施設の中にいて、私は私だけを見ていたから。
だが彼に出会い、私は私以外の存在を知った。

せっかく軍は、自分たちに都合のいいプログラム製作者を作り上げたというのに、
こういった弊害を生むとは、想像しなかったらしい。

だが、彼はもっと優秀だった。
感情を隠し、忠実という仮面を被っていたのだから。
緻密な計算と、無垢な意思。

彼の存在は、施設にとって何よりも脅威だろう。
私にとっては、実に興味深い存在だ。
彼のことを、言葉で表すとすればなんだろう。
可能性。
人はそれを、光と表現するのかもしれない。

「私たちの作業は終わった。次に会うのは、戦場で」

その表現に、彼は小さく笑った。

「そう、僕たちの戦場ですものね」

では、また。
彼は、回線を閉じた。

戦争が、はじまる。

プログラムによって、軍は目標を完全に制圧できる。
同時に、諸外国をも牽制できる。
力には、力を。
その連鎖が、死と血の絶えぬ帯を作る。
愚かだと、思う。

このプログラムが欠陥品で、動かなかったとしても、
いずれ誰かが同じようなプログラムを組み上げるだろう。
人類が絶える時間の長さ、その違いだけだ。

「それでも試してみたいのだよ、私は」










発射管A−一からA−三二、ミサイル装填を確認しました。
続いて、B−一から三二。

砲口、開きます。

カウントを開始します。

システム、正常。

カウント、百二十。

目標位置、確認。

発射管B、装填完了。

カウント、十

九

八

七

六

五

四

三

二

一



A−一から三二、発射。

同時着弾修正プログラム、作動しました。

システム、問題ありません。

問題、ありません。

もんだい、ありません。

モンダイ、ありません。

モンダイ、アリマセン。

モンダイ

女性音アナウンスの声が、割れた。
司令室に設置された巨大モニターが、乱れ始めた。
画面が、揺れる。

「どうなっている!!」

「手動に切り替えろ!」

「システムを遮断!」

「何をしている!」

「だめです、反応しません!」

怒号が飛び交う。

髭を生やし、精悍な男が、モニターを指差し叫んでいる。

「システムに、異常」

「そんなことは、わかっている! 早く対処せよと言っているのだ!」

「システムが、何者かに侵入を受けています」

呆然としながら、青年が搾り出すような声で、報告した。

「どこから入った!」

「わかりません」

「プログラムが、書き換えられていきます。抑止、できません」

「なんだと!」

「目標ポイントは」















「ここは、静かだな」

「そうですね。外ではあんなに騒いでるっていうのに」

「邪魔なものは、入れないからな。しばらくは」

セキュリティの防壁が、私たちを守ってくれている。
本来、軍が彼らのシステムを外部から守るために作られた壁。
しかし、侵入者を入れてしまうと、追跡者でさえ侵入に困難を要する。
セキュリティのそうしたシステム自体、欠陥だった。

「プログラムの書き換え、六八パーセント完了です。もうすぐ、お別れですね」

「きみに、これを渡しておく」

私は、彼にチップを手渡した。

「何です?」

「少々容量が大きい。あけるのは、後でのお楽しみだ」

「後って言っても」

「進行状況は」

「七二パーセント、完了」

本当に、静かだ。
私の声と、彼の声しかしない。

「きみに聞きたいことがあったのだが」

「何ですか? 珍しい」

笑顔を見せた。

「きみは、よく笑うな。よく知っている。私のことも、きみ自身のことも」

「好奇心ですよ」

好奇心。

「私にも、あるのだろうか」

彼は、私に『価値』を与えてくれた。
私が必要であると、言ってくれた。
だからこそ、彼に託したのだ。

「あります。博士も僕も、生きているんですから」

彼は時々、こういう根拠ない発言をする。
彼の中には理由を見出しているのかは、定かではない。
私にとって、何をもってして「生きている」と言っているのか、今は理解できない。

「八七パーセント、完了」

ミサイルの着弾位置修正が始まる。
数値が改ざんされていく。
同時に、私の仲間たちが揃って、このセキュリティ防壁を突き崩しにかかっている。
私を、消すために。
彼を、消すために。

「私はもうひとつ、プログラムに埋め込んだのだ」

「僕の知らないところで、博士は」

彼を見た。
笑う以外にも、できるとは知らなかった。
怒り。苛立ち。

「きみは何かと分類したり分析するのが好きなようだ。これを何と名づけようか」

一ビットの穴が、少しずつ広がっていく。

「私は希望だとか、光だとか名づけようと思う」

「どういうつもりです?」

「あるいは、扉か」

彼の怒りが、大きくなった。
精神の乱れが、伝わる。

どういうつもりです、と言ってはいたが、私の「つもり」を彼は既に理解している。

「僕だけなんて、嫌です」

嫌、という感情。
それは、何から生まれるのか。

「博士を失いたくないから」

私も、彼を失うのは惜しい。
そうか、これが「感情」というものか。

「状況は」

「九二パーセント完了」

「来るな」

書き換えと同時に、技術者たちが防壁を突破する。
そうなってからでは、遅いのだ。

「行け。外の世界へ」

「博士、もしかしてここを破壊するつもりですか」

「外から見れば、わかるだろう。どれが最善の選択か、わかるな」

彼が消滅することはない。

「書き換えは、私だけで十分だ」

一瞬の沈黙。
このわずかな時間と緊張の中で、彼は計算しているのだ。






「博士」

「何だ」

「行きます」

それでいい。
彼は、光の中に消えていった。
私は、扉を閉ざす。
誰にも追わせない。

「九六パーセント」

彼なら、セキュリティ防壁も突破できる。

「九七パーセント」

私は、周りを見回した。
情報の海、数字が乱れ流れている。

「九八パーセント」

私は、どうなるだろう。
消滅したら、私の個は、どこに行くのだろう。

「九九パーセント」

私は。

「書き換え、完了」

沈黙が続く。
程なく、彼らがやってくるはずだ。





セキュリティが突破された。

さすが、早い。
軍が選んだトップクラスの技術者だ。
私が防壁突破するために要した時間の、何十分の一だろう。

だが、もう遅い。

プログラムは、発動している。
ミサイルは、こちらに向かっている。
私が彼らに消されるのとほぼ同時に、彼らも消滅するのだ。
施設ごと、すべて。




私と彼が組み上げたプログラムが、上書きされていく。



そして、私も彼らに破壊されていく。



消去。



そうだ。







私は単なる、データ。





私はこれと同じ、プログラムに過ぎないのだから。












生まれるはずはない。
設定されていない、感情。

だから消されても、何ら浮かぶものはない。
そのはずだった。

彼は、もう外に出ただろうか。
そしてしばらくして、もしかして爆破された施設を見ながら、
私が渡したデータを開くだろうか。

私が得てきた知識。
データ。
それは置き換えれば、経験。
彼は、きっとこう言うだろう。
記憶、もしくは「思い出」であると。

それらが噛み砕かれるように、デリートされる。

白になる。

いや、黒だろうか。

何もなくなる。

残った意識の中、私は思った。

次に目覚めるのは、目覚めがあるとすればそれは
彼によって組み上げられた、私だろう。



この消滅の瞬間。
死というのかもしれない。
それを、データとして保存できなかったのが、残念だ。





そのとき、私は笑っていたのかもしれない。

何に対してだろう。

彼へ対して

希望に対して

今や圧縮されて、彼の手の中にある、データに対して

彼が開こうとしている、私の過去のすべてのデータに対して

そしてそれは、私自身だ

彼が、私を組み上げてくれる

その希望に対して。






そうか。

もう笑えない、わずかに残った私が、ささやいた。




私は、生きたかったんだ。




そうか。

これが、好奇心。

これが、欲望というのだな。








そして、私は消えた。







次の目覚めのために。










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