Ventus  24










今日は何をしようか。
思いつくこともないまま、朝食をゆっくりと摂った。


友人たちは、早々に買い物にでかけてしまっていない。
あと一人は、部屋の扉を叩いたが、返事はなかった。

本は、昨日授業が明けてから一冊読み終わってしまった。
新しい本を借りに行こうかと思ったが、生憎、灰色館は今日は休館日だ。
館主のヒオウ・アルストロメリアには、お目にかかれない。

本館へ。
だが、そこは人が多い。
ディグダクトルの人込みには慣れたつもりだが、またわずかな拒否反応が再発している。

ため息が出る。
気分が滅入る原因を探ってはみるが、どこにも行き着かない。
かといって、このまま部屋で閉じこもっていては、息が詰まるだけ。
窓に目をやった。
両端に寄せられた遮光カーテンの奥に、ガラス一枚挟んだ、現実感の薄い外界が広がっている。

各部屋一台、与えられた端末の画面を四分の一占拠して、天気情報を知らせている。
今夜から明日にかけて天気が崩れるでしょう。
告げている女性予報士の顔は晴れやかだった。

なるほど、外は雲が層を成している。
灰を帯びた雲が、蒼い天井を這っている。

夜から、だから。
私服の上に、白のシャツを上着代わりと手に取った。

雨が降り出す前に。
湿った部屋の空気を突っ切って、廊下へ出た。
廊下は幾分か、空調が効いている。



休日の午後。
サンダルの踵が、人のいない廊下に響く。
当てもないままに、飛び出した。
部屋の中に戻って、夕食まで黙って閉じこもっているのも、憂鬱を増殖させるだけだから。


長い、僅かに湾曲した廊下を一人で歩き、一番近い階段を下りた。
階下からは、賑わいが這い上がってくる。

掲示板の前ではいつだって、人が集まっている。
人込みに混じって、同じように掲示板の光る文字を見上げたが、特に真新しい情報も見当たらない。

人が平常よりも少なく感じるのは、来月に清女の祭典を控えているから。
生徒の半数は休日返上で準備に追われている。


見知った顔をいくつか見つけた。
彼女たちはこちらに気付いていない。
よくいる友人と談笑しながら、掲示板の下にいた。
声を掛けることもないまま、玄関ホールを抜け、表に出た。




灰色の世界。
モノクロームの空を見上げた。
まだ、雨は降らない。


眼前に広がる、円形庭園。
それを囲む円形回廊。
中央の樹は、今日も湿気を帯びた風に髪を弄らせている。

風景は、すでに目に馴染んでいた。
だが、未だ学園内で浮いた自分を感じていた。
なぜ。

等間隔に並んだ石の列柱を数えながら、回廊を歩いた。
拱廊の屋根は高く、内側には繊細な彫刻が施されている。
捩れる蔦、絡まるように鳥が描かれる。
まるで楽園だ。
生き生きと鳥が羽を伸ばす。

上を見上げながら、円形回廊の半分まで歩いてきた。
下手から庭園を挟んで見る寮は、遠くから見ると壁のように三棟立ち並んでいる。

寮に背を向けて、円廊から放射状に伸びる廊下の一つを歩いていった。
蜘蛛脚のように、円廊に掛けられた数本の廊下の内、寮と間逆に位置するこの回廊が一番広い。
始業時間前、生徒たちの河が流れていく廊下も、この中央回廊だった。
休日の今日はというと、人の流れはあるものの、いつもの活気はまるでない。
人を掻き分けるようにして進む苦労はない。
また、違う世界を見ているようで平常とのギャップも楽しめた。


「何を望むの。この先に。この不安は、何」
変わらなければならないと思ったのに。
変わるために、ここにいるのに。
何も変わっていない自分がいる。

「みんな変わっていく。みんな、この先を見ようとしている。なのに」
わたしは。
唇を噛み締める。








広い構内だ。
見たこともないものや、用途の分からないものがいくつも転がっている。

そのどれもが、セラ・エルファトーンの目を引いた。


花壇の中央、小高い丘のようになっている場所に、細長い鉄棒が山形に渦を巻いているオブジェがあった。
一本の鉄棒が、外側から内側に円を描きながら、一方の端は中央で天を突いている。
それが一体何なのか、最初見たときには分からなかった。
単なる芸術作品だとばかり思っていた。

湾曲した建築物を、寮として建造しているディグダクトルだ。
芸術性に富んだ作品を、目の保養として構内に配置していても不思議ではない。

何度か銀のオブジェがある花壇の側を通った。
図書館第六分室、通称灰色館へ、林の中の細道ではなく、舗装された道路で向かうときに側を通る。

四度目、花壇の側を通過したときだった。
思わずオブジェを凝視してしまったのを覚えている。
鉄の棒の下から、徐々に水が噴出し始めた。
細いパイプの中を、水が満ちていき、一秒ほど掛けて水は頂点に達し、小さく吹き上げた。

全方向に、細い水の放物線をいくつも描く図は、今思えば放射状に廊下が繋がっている円廊に重なる。
定期的な灌水に出会えて初めて、水のオブジェの実用性に気付いた。

芸術性の高いスプリンクラーは、今日は静止したままだった。
思わず足を止めてしまう芸術作品に、出会うことはできなかった。

小さな石を敷き詰めた、吸水性に優れた舗装道路はこの先で二手に分かれている。
左手に進めば、灰色館へ行くことができる。
一昨日の館主、ヒオウ・アルストロメリアの言葉を思い出した。
彼女は目尻に優しそうな皺を寄せながら、柔らかな声で、二日後の休みを告げた。

灰色館へは、館主に会いに行くために通っているようなものだった。
空っぽで、鍵の閉まった灰色館へ行っても、仕方がない。
右側へ進むことにした。
坂道は小さく上へ傾斜している。
軽い坂道を、白のサンダルで踏みしめて歩いた。
右側の道は三度ほど通ったことがある。
確か、この上には石造りの水道があったはずだ。
坂の中腹まで上ったところで、思い出した。

ただの水道だったら、気に留めることはなかった。
不思議だったのは、石造りの水道は、腰の高さにあるのではなく、蛇口は膝のあたりにあった点だ。
明らかに、足洗い場だった。
しかしここに、川や海があるわけではない。
なぜ、ここに。
一体何のために。

日の当たる、少しばかり小高くなっている、丘。
そこに置き去りにされたかのような、水道だけがあった。
不自然だ。

その道を通ってどこへ行く用事もなかったので、結局分からず仕舞いのまま、今また坂を上っていた。
いくら清女の祭典準備で賑わっていたとしても、まさかこんな場所に人などいないだろう。
セラは、そう思っていた。
四分の三ほど上ったところで、上から人の明るい声が響いてきた。
それに伴い、セラの歩調も速まった。
緩やかな丘の頂上に散らばっていたのは、男女数人の学生だった。
学生服は着ておらず、全員が水場を囲んでいた。






「あ、お客さんだよ」
一人が大きな目を更に大きく開いて、隣に立っていた男の子の肩を突付く。

「手伝いしに来たのか?」
「いえ、わたしは」
セラは、石で固められた、長い水場に目を落とした。

「布。洗濯しているの?」
端に蛇口が一つ。
そこから長く、石造りの水場は伸びていた。

「洗濯。近いけど、違うな」
人間一人がゆったり横たわれる位の長い水場には、今日は水が溜まっていた。
その中で、布が泳ぐ。

「染色をしているのよ」
「それも、祭典に使うの?」
「そうそう」
薄紅に染められた布が、水で何度も洗われる。

「清女の装束に使うの」
「あと五回ほど、繰り返して水に通せば、紅はもっと薄まってくるんだ」
白により近い薄紅色が好ましいと、彼らは説明してくれた。

「でも、今日はもうそろそろ撤収しなきゃ」
少女が空を見上げた。

「雨が降りそうだもの」
「本当は、晴れた日にしたかったけど」
時間が許してはくれない。
布地が出来上がると、すぐに縫製班に回し、その後清女たちに試着させて微調整を行う。

「紅色の染色剤は、花を使っててね」
ディグダクトルより南にある、水都として有名な小さな街周辺に生息しているものを使う。
一昨年までは、現地まで学生が赴き、住民とともに染色作業を行っていた。
昨年から、原料を現地から輸送し、この時期の染色作業を続けているという。

「はっきりした情勢はわからないけど。治安が不安定になったと聞いたわ」
少女たちは、それだけしか言わなかった。
布を水場から引き上げる。

「手伝いましょうか」
彼らは、撤収作業に掛かっている。
これから布を倉庫前で広げて干すという。

「大丈夫よ。男の子たちもいるし」
手馴れた様子で、要領よく布を絞り丸めた。

「興味があるなら、いつでも倉庫に来たらいいわ。見学は歓迎」
三反の布を分担して抱え込み、彼らは階段を下っていった。

「清女の祭り」
その清女がどういう存在なのかすら、今年入学したばかりのセラには分からない。

「一ヵ月後、か」






部屋を出てから一時間ほどしか経っていない。

「クレイ、何してるのかしら」
口に出して、クレイ・カーティナーに依存してしまっている自分に気付き、口を接ぐんだ。
彼女がいないと、こんなにまで不安になる。
広いディグダクトルにいることが、不安になる。

「ここにはいろいろなものがある。ありすぎる。みんな輝いて、笑って。才能があって」
誰もいなくなった丘の上で、セラの声が風に溶けた。

「でも、わたしには?」
クレイが、自分には何もないと言った。
否定したのはセラだ。

クレイは他人を惹きつける。
他者と交わろうとはしない、独立した個。
前だけを見つめた漆黒の瞳。
周囲に惑わされず、曲げられない。
その個性に、無条件に惹かれていった。
他人を受け入れない絶対零度の氷壁が、周囲の人間を近づけさせなかったとしても、誰であっても彼女のまとう空気に目が向いてしまう。

突出した個性。
無意識に、セラはそれに目を奪われていた。。

対する自分は。
誇るべきものも、何もなく、凡庸だった。

クレイの側にいたいと思う。
彼女の心は繊細だ。
直に触れれば音を立てて脆く壊れる。
だからこそ、とてつもなく強固なガラスケースの中に仕舞い込んだ。
誰にも知られないように。
誰にも触れられないように。
それが、強さ。
そして、魅力。

「クレイの側にいればいるほど分かる」

同時に。

「クレイの側にいれば、わたしはわたしの無力さが苦しい」



丘にある木に寄りかかって、少し下を通る道路を眺めていた。
学生と教師が時々通りかかるが、セラには気付かない。
自分が木になった気分がした。
いっそ、なりたかった。

周囲の目を気にすることもなく、自分の凡庸さを嘆くこともなく。
他人との比較を、することもない。






比較。



「そうか。そうね。わたしは」
怖れている。



クレイは自分自身を恐れていた。
自分の秘める過去を。
それによって引き出されるかもしれない、何かを。

「でもわたしは、他人の目ばかりを恐れてる」
秘めるものもない。

「置いていかれてしまうのは、いや。捨てられてしまうのが、怖い」




渦巻く、どろどろとした感情。
自分を壊してしまいたくなる、感情。
何かを恨んでしまいそうになる、心。

それを、何と言うか知ってる?


「これは、劣等感だわ」






セラは草の上にうずくまった。
寄せた膝の上に、顔を埋める。

「そして、醜い感情を埋めるために、わたしはクレイを利用してる」
誰も側にいなかったクレイ。
一人だったクレイを取り込むことで、寂しさを埋めようとした。
強いクレイの側にいられることで、自分も変われると思っている。

「汚れてる」






息を詰めた。
聴覚に、風の吹くような音が響く。

「あ、め?」
雨粒が、地面を跳ねてセラの足を濡らす。
気付くより前から降っていたらしい。
木の葉で防ぎきれなくなった雨水が、セラの肩に落ちる。

傘は持ってこなかった。
どこか、雨宿りができる場所に。
ここから寮までは、遠い。



滑らないように注意しながら、階段を下った。
丘まで来た道ではなく、更に先に進む。
方角的には、校舎がある辺りのはずだ。
そこならばいくらでも、雨を防げる屋根がある。

吸水性の高い素材で作られた舗装道路であっても、サンダルは上からの雨水で濡れてしまう。
滑らかな靴底で素足は滑り、走りにくかった。
雨足は強くなり、水は髪で支えきれなくなり、こめかみを伝う。
しばらく走ると、屋根が見えてきた。

小音楽堂だ。
浅い屋根に飛び込んだ。
外壁に張り付くように立っていたが、本降りとなった雨水は地面で弾ける。
それでも、弾む息が落ち着くまで、じっと動かないでいた。

黒い雲が隙間なく敷き詰められている。
雨が上がる気配はない。
天気予報では、夜からだった雨。
その予定を大幅に早め、雲の向こうでは地平線にもまだ遠い太陽が照っているだろう。



「寒い」
セラは、両腕を抱え込んだ。
暑季は終わりにかかっている。
冷たい雨が空気の温度を下げる。

小音楽堂の扉まで壁伝いに歩いていき、硬い鉄扉に手を掛けた。
鈍い金属音が、僅かな期待を磨り潰した。
行事もない今、しかも休日とあって、小音楽堂は完全施錠されている。

体から、走ってきた熱が引き始めている。
いつまでも、こんな場所にいられない。

音楽堂を一周して、次の目的地を探す。
林で囲まれ、しかもこの雨だ。
視界が悪い中、目を凝らして逃げ込める場所はないか、隅々まで探した。

右の林の奥。
木の陰から、僅かに黒い屋根が見える。
草で全体が隠され、施設の一部しか見えないが、雨が吹き込んでくるここよりはいい。
セラは一番近いその場所を目指して、雨の中を駆け抜けた。



「ここは」
両開きの扉を開いて、中に駆け込んだ。
セラの服の裾から垂れた水滴が、磨かれたばかりのような床を濡らす。

「訓練施設」
以前、クレイと来たことがあった。
そのときは、クレイが濡れていた。

乾いた訓練施設、濡れた学生。
かなり不自然だけど。
セラは苦笑した。

「ここで雨宿りさせてもらおう」
前に来た、クレイとの記憶を再生させるように、同じ廊下を辿った。

クレイの部屋に声を掛けても、返事はなかった。
部屋にいれば、何かしらセラに対して応答が返ってくる。
つまり、彼女はそこにはいなかったということだ。

クレイの行く場所で、セラが思いつく限りでは、数箇所しかない。
灰色館。
そこは今日、閉館している。

中央図書館。
しかし課題は終えたばかりだ。

そのほかは、この訓練施設。
クレイは、変わった女性教師にアームブレードを教わったと、セラに話していた。
特に、アームブレードにのめりこんでいるわけではないが、多少は興味があるようだ。
それも、クレイにとっては珍しい現象ではある。



広い一階フロアを一周し、二階に上がった。
クレイに、本当に会えるとは思わない。
生徒が使用する訓練施設だ。
規模は相当なもので、何階層にも重なっている。
疲れた。
二階を一周したら、一階の休憩室で休もうと考えていた。




ナンバープレートに、使用申請者の学生ナンバーが表示されている。
五分の一周ほど進んで、セラの視界に見慣れた番号が飛び込んだ。

「クレイ」
名を呼んでも、分厚い扉の向こうには届かない。
部屋番号の下を、何度も見直した。
学生ナンバーは、確かにクレイの学生証に彫られていたものだった。

一歩前に踏み出せば、クレイの顔を見ることもできる。
液晶画面に触れ、声を掛ければ扉を開くことができる。
セラは、学生番号に指を這わせた。

「でも、今は」
俯いた顔、肩から垂れる髪の一房から、水滴が流れ落ちた。






「帰ろう」
雨はまだ降り続いている。
弱まったらと思っていたが、もう構わない。

部屋に閉じこもりたい。
すべてを、閉じ込めてしまいたかった。
見られたくなかった

セラは、クレイのいる部屋を背にして、疲れた体を引きずるようにその場を去った。
彼女が立っていた扉の前には、髪から流れ落ちた水滴だけ、跡に残して。









体が、だるかった。
張り付いて気持ち悪い服を脱ぎ捨て、風呂に入って、すぐにベッドに直行した。
布を体に巻きつけるように、ベッドに潜り込んだ。

軽い頭痛を覚えながらも、意識は薄れていった。






「セラ」

夢の中だろうか。
せめて、その場所だけは、暖かく優しい場所であってほしい。

「気分が悪いのか」

頭に乗せられた、不器用な手のひらが心地いい。

「寮医を呼ぼうか」

半ば夢の中に沈んだままで、声もすぐには出ない。
大丈夫だよと言う代わりに、火照った手を差し出した。




薄目を開けた視界いっぱいに、心配そうに眉を寄せたクレイが広がった。

「平気」
「でも、手が熱い」
伸ばした指先は、クレイの頬に触れた。
指は明らかに熱を持っている。

「起きたばかりだから」
セラは体を起こそうとしない。

「呼んでも返事はなくて、扉に鍵が掛かってなかったから」
「そう。うっかりしてたわ」
どろどろとした眠りが、まだセラの後ろ髪を掴んで離そうとしない。

「わたしは、ほしかったの。羨ましかった」
「何を?」
「力よ」
虚ろな瞳で、ベッドに腰掛けたクレイを見上げる。

「変えられる、力」
強い意志。
貫き通せるだけの、強さを。

「クレイは、何もないって言って、わたしはそれを否定したけど」
呼吸が速い。
苦しいのだろうか。
クレイは恐る恐る、セラの顎に指を乗せた。
熱い。
寮医を呼ぶため立ち上がったクレイの肩を、引き寄せ、留まらせた。

「本当に何もないのは、わたしの方よ。だから」
顔色の悪いセラ。
風邪を引いている。

「羨ましかった、みんなが。わたしは、取り残される」
速過ぎる、ディグダクトルのスピードに乗り切れない。
変化を絶えず繰り返す中、一人だけ道が見えなくて立ち止まっている。
居場所を求めてディグダクトルに来たのに。
道を見出したくてここにいるのに、何もかも、手の中からすり抜けていく。

「置いていかれるのはいや。わたしだけ、何も変えられなくて」
「変わる必要がどこにある。セラは、セラのままでいい」
「クレイは先に行ってしまう、なのにわたしは」
「セラは私の側にいてくれると言った。私だって、セラの側に、ずっと」
言いたいことは、まだあったはずだ。
クレイも、聞きたいことがあった。
耐え切れず、セラは襲い来る眠りに身を委ねた。

深い眠りの海に、沈んでいった。




「そうして、模索している。私のことだって、私より知っている。何もないはずがないだろう」
変わりたいと、願い、道を探している。
苦心するセラを知った。

「でも私は、セラのことが分からない。こんなに近くにいる、つもりなのに」
湿ったセラの髪を梳いた。

「何も、できない」
クレイは寮医を呼びに、立ち上がった。

振り返った。
セラは動かない。

「近くにいるのに分かり合えない。知ろうとするひとの心が、見えない」
椅子に掛けられた、濡れた服に目をやった。

「セラ」
薄い布地が、椅子の背に張り付いている。

「出会う前は、こんなこと知らなかった。人間が、こんなにも不器用で、複雑だなどと」
音を殺して、クレイは扉を静かに閉めた。











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